1. 建物明渡とは何か?
賃貸借契約が終了した際、賃借人に建物から退去してもらうことを「建物明渡」といいます。特に借家人が長年住み続けている場合や居住用の物件では、貸主が一方的に「出ていってほしい」とは言えません。法律では借主を保護する制度が整えられており、明渡しには**「正当事由」**が必要になるケースが多くあります。
2. 建物明渡しに必要な「正当事由」とは?
(1)契約期間満了の場合
期間を定めた賃貸借契約が満了した際、貸主が契約を更新せずに明渡しを求めるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 更新拒絶通知を1年前から6ヶ月前の間に行うこと
- 借地借家法28条に基づく「正当事由」があること
「正当事由」とは、次のような事情を総合的に判断して認められるかどうかが決まります。
- 貸主・借主双方の建物利用の必要性
- 過去の契約履歴や建物の利用状況
- 建物の現況
- 立退料の提案内容
中でも、貸主側が建物を自己使用する必要性が強く求められます。
例えば、「自分や家族が住む必要がある」「取り壊して建て直す予定がある」といった事情が主な判断材料になります。
(2)契約解除による明渡し
賃貸借契約の途中で解除をする場合、主に以下の2つのケースに分かれます。
- 賃借人の債務不履行(例:家賃の滞納、契約違反)
- 貸主からの正当事由による解約申入れ
債務不履行による解除では、原則として「催告→履行なし→解除通知」の手順が必要です。ただし、「無催告解除特約」がある場合はこの限りではありません。
なお、判例上は「単なる違反」だけでなく、信頼関係が破壊されたと認められる程度の違反であることが解除の前提になります。
3. 正当事由がない場合の対応とは?
実務では、「貸主側の事情だけでは正当事由と認められない」というケースも少なくありません。そのため、立退料の支払い提案を行い、円満な退去交渉を進めるのが一般的です。
「立退料が提示されれば引っ越しに応じる」という借主も多く、実務的には金銭交渉が大きな役割を果たします。
4. 明渡しを求めるときの注意点
- 更新拒絶通知の期限を守ること
- 口頭や手紙で「出て行ってください」と言うだけでは法的効力がないこと
- 明渡し交渉中に感情的な対立が生まれないよう、弁護士を介した交渉が望ましいこと
5. まとめ|建物明渡しと正当事由は専門家に相談を
借家の明渡しは、単に「契約が終わったから出ていってください」とは言えない繊細な問題です。特に「正当事由」が必要なケースでは、法律知識と交渉力が不可欠です。
明渡しを検討されている貸主の方は、まずは不動産に強い弁護士に相談し、法的リスクを避けたうえで、適切な対応をとることが大切です。