賃貸物件を退去する際、貸主にとって最も重要なのが**「原状回復の範囲」**です。賃借人がどこまで原状回復を行う義務があるのか、適正な請求を行うために知っておくべきポイントを解説します。国土交通省のガイドラインもあるものの、契約内容や状況によって判断が分かれるケースもあるため、重要なポイントの知識を身につけましょう。
1. 原状回復とは?貸主が押さえるべき基本ルール
原状回復とは、賃借人が退去時に物件を借りた当初の状態に戻すことを意味します。ただし、「完全に元の状態に戻す」ことを意味するわけではありません。ここでのポイントは、どこまでが貸主負担で、どこまでが借主負担となるかを正しく把握することです。
【貸主が請求できる範囲】
- 借主の故意・過失による損耗や破損(例:壁の穴、床の傷)
- 通常の使用を超える損耗(例:タバコのヤニ、ペットによる損傷)
- 善管注意義務違反による劣化(例:水回りのカビ放置による腐食)
- 契約に基づく特約により借主負担と定めたもの
【貸主が負担すべき範囲】
- 経年劣化による損耗(例:日焼けによるクロスの変色)
- 通常の使用による摩耗(例:家具設置による床のへこみ)
貸主としては、借主の責任範囲を明確にし、適切な原状回復費用を請求することが重要です。
2. 原状回復の範囲を適切に請求するための具体例
貸主が原状回復費用を請求できる範囲を具体的に見ていきます。
【借主負担となる主なケース】
- タバコによる壁の変色や臭いの付着
- ペットによる柱や壁の損傷
- 水回りの清掃不足によるカビや腐食
- 故意または過失による設備の破損(例:フローリングの深い傷、カーペットのシミ)
- エアコンや換気扇の汚れによる故障
【貸主が負担すべきケース】
- 通常の生活で発生する経年劣化
- 日光によるクロスやフローリングの色あせ
- 冷蔵庫や家具の設置跡によるへこみ
3. 貸主が有利に進めるためのポイント
① 契約書の特約を明確に設定する
貸主にとって最も重要なのが、契約時の「特約」の設定です。特約がない場合、貸主が原状回復費用を請求する範囲が限定されてしまいます。
特約に含めるべき内容の例:
- 退去時のクリーニング費用は借主負担
- 壁紙・床材の張替え費用は借主負担
- エアコンの清掃費用は借主負担
② 退去時の立ち合いと写真記録を徹底する
退去時には、必ず貸主または管理会社が立ち会い、部屋の状態を確認しましょう。
- 現状確認の際に修繕箇所を明確にする
- 借主にサインを求め、後からトラブルにならないようにする
- 写真を撮影し、証拠として残しておく
③ 敷金からの差し引きを適切に行う
敷金の充当は、貸主にとって最も手間がかからない回収方法です。契約書に**「原状回復費用は敷金から差し引く」**と記載しておけば、未払いが発生するリスクを軽減できます。
貸主が行うべき手続き:
- 退去時の原状を確認
- 修繕費用を算出
- 敷金から差し引いた金額を借主に返還
4. 借主が原状回復費用を支払わない場合の対策
もし借主が原状回復費用の支払いを拒否した場合、以下のような対応が考えられます。
① 内容証明郵便を送る
法的な手続きを取る前に、内容証明郵便で請求を行うことで、支払いを促すことができます。
② 民事調停を利用する
簡易裁判所での民事調停を利用し、話し合いで解決を図ることが可能です。
③ 訴訟を起こす
最後の手段として、民事訴訟を検討します。未払い金額が140万円以下であれば簡易裁判所、それ以上であれば地方裁判所での対応となります。
まとめ
賃貸物件の退去時、貸主が適正な原状回復費用を請求するためには、
✅ 借主の過失や特約に基づく範囲を明確にする ✅ 契約時に有利な特約を設定する ✅ 退去時の立ち合いを徹底し、写真記録を残す ✅ 敷金の充当を適切に行う ✅ 支払い拒否時の対応を把握しておく
これらの対策を講じることで、貸主が不利な状況に陥るのを防ぎ、スムーズな退去手続きを実現できます。原状回復の対応でお困りの貸主の方は、弁護士へ相談することをおすすめします。